大正時代の文豪や著名人が多数登場する小説をご紹介します
今回ご紹介したいのは、KADOKAWAから2022年12月に出版された、『名探偵の生まれる夜 大正謎百景』です。
ジャンルとしては、「大正時代の日常ミステリ」になると思います。
作者の青柳碧人さんは2020年に著作『むかしむかしあるところに、死体がありました。』が本屋大賞にノミネートされた実力者。
書店員自身が自分で読んで「売りたい」と思った本に投票する本屋大賞のノミネート作家なので、素直に楽しく読める作品です。
インタビューによると、青柳碧人さんは普段小説を書く時、小説をたくさん読んでいる人よりも、あまり読んだことがない人に向けて書くことが多いそう。
この作品も文豪や小説が元から好きな人だけでなく、文豪エンタメ作品が好きな人など、幅広い人に合うと思います。
『名探偵の生まれる夜』作品情報
あらすじ
大正七年の秋、与謝野晶子は大阪で宙に浮かんでいた。夫である鉄幹と共に通天閣の足元に広がる遊園地「ルナパーク」を訪れたものの、夫の言葉に血がのぼり彼を置き去りにひとりでロープウェーに乗ったのだ。電飾まぶしい遊園地を見下ろし、夫婦というものの不確かさを嘆く晶子。そのとき突然ロープウェーが止まり、空中で動かなくなって……。(「夫婦たちの新世界」)
版元ドットコム 『名探偵の生まれる夜 大正謎百景』 紹介 より引用
遠野には河童や山男など不思議なものがたくさん潜んでいるという。隣村を目指して朝もやの中を歩いていた花子は、「くらすとでるま…」という不思議な声を聞く。辺りを見回すと、そこには真っ赤な顔の老人がいた。かつて聞いたむかしばなしに出て来る天狗そっくりの老人から逃げ出そうとする花子だったが、今度は黒い頭巾に黒い蓑をまとった怪しい男から「面白い話を聞かせてくれないか」と尋ねられ……。(「遠野はまだ朝もやの中」)
目次
カリーの香る探偵譚
野口英世の娘
名作の生まれる夜
都の西北、別れの歌
夫婦たちの新世界
渋谷駅の共犯者
遠野はまだ朝もやの中
姉さま人形八景
(全8篇)
ここがいい! 『名探偵の生まれる夜』おすすめポイント
『名探偵の生まれる夜』のおすすめポイントを3つご紹介します。
おすすめポイント1 多数登場する大正時代の有名人
この作品には「これでもか!」というぐらい、大正時代の著名人が登場します。
本の表紙にかかれているのは、右から「与謝野晶子・芥川龍之介・宮沢賢治・野口英世」。
そして、真ん中にいる犬。こちらは誰だと思いますか?
渋谷でおなじみのハチ公です。両方とも左耳が垂れていますよね。
こんなかたまで登場します。
というか、この作品は登場人物の割合が「著名人>創作人?」という感じです。各作品5人以上は有名人だと思います。
どこまでが虚構でどこから史実なのかわからなくなってしまうんですが、そのワクワクがすごく面白いです。
「本当にこんなことがあったの?」と思えてしまう楽しさです。
おすすめポイント2 大正時代の空気
登場人物が大正なので当たり前かもですが、描かれる当時の様子がいいです。
西洋文明は明治時代に入ってきましたが、大正はそれが庶民に広まりました。
時代自体は短いですが、「ごった煮パワー」のような力があります。
いろんな人が、いろんなところに行って、考え方の違いから仲たがいもして、「人間関係が濃い!」と思ってしまいます。
表紙の赤と黒、各話の間に挟まれる扉、線画のモノトーンもレトロでこの本と合っています。
おすすめポイント3 芥川龍之介がかっこいい
こちらの本の中で私が一番好きな話は、芥川龍之介の登場する「名作の生まれる夜」です。
この芥川龍之介が、理知的で、かっこいいです…。
作品集のなかでいちばん短い作品ですが、事件から洞察に進んで人間のエゴについて語っていく芥川龍之介。
そして、「はっ!→なるほど」という終わり方で閉じられる。
すごく面白かったです。芥川いぃ…。
おすすめしたい人・合わないかもしれない人
この作品を特におすすめしたいのは、「日常ミステリが好きなかた、大正時代の著名人について知りたいかた」です。
謎自体は軽いですが、事件の謎が解かれることでまずハッとし、さらに作品によって登場人物がこの人だったのかとわかることで、
なるほど!!
と、謎が二重にやってきたような楽しさがあります。
逆に、ゴリゴリの重い推理が好きなかたにはあまりオススメしません。
作品自体も短編の繋がりなので、軽く読み進めるタイプの小説だと思います。
まとめ
青柳碧人さんの「名探偵の生まれる夜」は、「高校生~上は年代問わず」で楽しめる作品だと思います。
さらに、文豪や著名人について知っている方や興味があるかたには、特におすすめしたいです。
名探偵の生まれる夜 大正謎百景(KADOKAWA)
ここまで読んでいただきありがとうございました
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