「あえか」の意味・由来
「あえか」は「かよわく、弱々しく、たよりない様子」のことを言います。
女性の「幼さが残る、華奢で上品な美しさ」に使われてきました。
「あえかな」「あえかなり」「あえかなる」などが活用形で使われます。
この言葉は、古語の「落ゆ(あゆ)」から発生していると思われます。「落ゆ」には「こぼれおちる」の意味があります。
触れれば落ちてしまうような感じから「かよわい」の意味があります。
なんかちょっと違う…。今では「あえかな夢」みたいな感じで使わない?
時代による「あえか」の使われ方の変化
「あえか」は時代によって使う対象が変わってきた言葉のようです。
今では、
・あえかな希望
・あえかで可憐な野の花
のように女性よりも、自然や夢などがはかなく美しいという様子として使われます。
それは「あえか」が、平安時代に使われた後、しばらく使われていなかった言葉で、明治30年代に、当時の歌人が雅語として再発見した言葉だからです。
その後、自然や夢など、はかなげで美しい物の様子として広まっていきます。
ですので、古典と明治時代以降では使われる対象の範囲が変化しています。
さらに現代では、「あえかな声」(=かすかな声)などとしても使われています。
「あえかな」を使った小説・詩
弟と愛くしんだ、あえかな「ろおれんぞ」の優姿を、思ひ慕つて居つたと申す。
芥川龍之介『奉教人の死』より
ここでは女と見まごう程美しい「ろおれんぞ」の姿として「あえかな」が使われています。
その頃です、僕が囲炉裏の前で、
あえかな夢をみますのは。
随分……今では損はれてはゐるものの
今でもやさしい心があつて、
こんな晩ではそれが徐かに呟きだすのを、
感謝にみちて聴きいるのです、
感謝にみちて聴きいるのです。
中原中也 山羊の歌『更くる夜』より抜粋
夢ははかなく美しい物です。
やぶうぐひすがしきりになき
宮沢賢治 春と修羅 第二集『七三 有明』より抜粋
のこりの雪があえかにひかる
宮沢賢治は雪や氷に対して何度か「あえか」を使っています。
時間が経つと確実に消えてしまう雪は、「あえか」の言葉の持つはかなさにぴったりです。
現代の「あえか」
「アエカナル」(笹倉綾人 著 電撃コミックスNEXT)という漫画があります。
150年もの間姿無き神に仕えてきた見た目は少女である「アエカ」と主人公の男性の物語のようですので、古典の「あえか」の言葉が持つ女性の幼い雰囲気や、また「あえか」の「落ちそうで不安定な危うい感じ」も含まれているタイトルだと思います。
作者様は『ホーキーベカコン』という谷崎潤一郎の『春琴抄』を漫画化した作品も描かれています。
まとめ
「あえか」は「かよわく、弱々しく、たよりない様子」です。
女性の美しさを表す様子として多く使われ来ましたが、現代では「はかなげで美しい物の様子」として、自然・声などに多く使われています。
「あえか」は日常ではあまり使われない言葉ですが、美しい日本語として覚えておきたい単語です。