最近、「メタバース」という言葉について目にする日が多くなりました。
フェイスブックが2021年10月28日にこれからはメタバースの分野に力を入れるとして、社名を「Meta」に変更したことは記憶に新しいです。
特に最近は、
- コロナ禍において対面のコミュニケーションがとりにくくなっている
- デバイスのスペックが発達してきた
という外からの影響もあり、注目が集まっています。
今回はちょっとわかりにくい、「メタバース」がどのようなものか、という意味や条件について探っていき、最後は
Nintendo「あつまれ どうぶつの森」はメタバースか
ということについて考えてみます。
- 「メタバース」という言葉の意味・語源・条件
- メタバース的サービスの紹介
- 「あつまれ どうぶつの森」(あつ森)はメタバースといえるか
現在のメタバース関係の動き
メタバースは簡単に言うとインターネット上の仮想空間のことです。
人々はそれぞれ「自分の分身となるキャラクター」=「アバター」を使い、そこで同じように入って来た人とコミュニケーションをすることができます。
次の動画は、今日本で一番人気があるメタバース的サービス、「VRChat」の紹介の動画です。
こちらに映っているアバターの一人一人は現実には別の場所にいる人達ですが、メタバースを通じて同じ時間を過ごし、同じ場所にいるような気持ちでコミュニケーションを取ることができます。
メタバースはこのように、何かをクリアするといった決められた目的のためではなく、コミュニケーション自体を楽しむ空間です。
メタバースの語源
実は「メタバース」という言葉は最近できたものではありません。
「メタバース(Metaverse)」という用語は、近未来のハッカーたちの活躍を描いたSF小説『スノウ・クラッシュ』(1992年)が由来です。
その後この用語は、仮想空間自体の総称として使用されるようになりました。
用語としては、「高位・~を超えた」などの意味を持つ「meta」と、「宇宙・世界」を表す「universe」が融合した言葉になります。
メタバースの意味とそのあいまいさ
そのようなメタバースですが、定義・条件はあいまいです。
少し難しくなりますが、ここからいろいろな本でのメタバースの定義についてみていこうと思います。
基本的な意味-「インターネット上に人が集う空間がある」「自分の分身がいる」
2011年5月10日発行の『3Dマーケティングがビジネスを変える』(企画・監修・著者 渡辺昌宏/著者 町田聡、箱田雅彦 翔泳社)ではメタバースの意味を次のように言っています。
●メタバース(仮想空間を利用したアバター・コミュニケーション)
『3Dマーケティングがビジネスを変える』 (企画・監修・著者 渡辺昌宏/著者 町田聡、箱田雅彦 翔泳社) P37
インターネット上の仮想空間サービスの総称です。利用者は、アバターと呼ばれるキャラクターを介して、他の利用者とコミュニケーションを取ります。
「インターネット上に人が集う仮想空間がある」こと。
「自分の分身(アバター)がいる」こと。
これがメタバースの一般的な定義だと思います。
メタバースの追加の条件・要素①「物を作れる」
同時期の2011年1月11日発行の『バーチャルリアリティ学』(日本バーチャルリアリティ学会編 コロナ社)ではメタバースの定義を4つ挙げています。
①3次元のシュミレーション空間(環境)を持つ。
『バーチャルリアリティ学』(日本バーチャルリアリティ学会編 コロナ社 ) P251
②自己投射性のためのオブジェクト(アバタ)が存在する。
③複数のアバタが、同一の3次元空間を共有することができる。
④空間内に、オブジェクト(アイテム)を創造することができる。
先ほどの基本的定義に加えて、オブジェクトを創造することができる、というものが加わりました。
つまりメタバースではものづくりができる、ということです。
この言葉から例を挙げると、
- アバターの服・アクセサリー
- アバター自体の姿
- 家具などのアイテム
などを作ることが考えられると思います。
そしてだいぶ後になりますが、2021年3月25日発行の『未来ビジネス図解 仮想空間とVR〈メタバース〉』(株式会社往来 著 エムディエヌコーポレーション)では、先ほどの定義に触れて、さらに
無形のコンテンツであっても消費を促す創造ができればこの定義にあてはまる
『未来ビジネス図解 仮想空間とVR〈メタバース〉』(株式会社往来 著 エムディエヌコーポレーション) P103
と、捕捉しました。
つまり目に見えるものをメタバース内に自分で作り出せるというだけでなく、
- アバターの動き(ダンス・動作)
- インターネットの翻訳機能を利用した、実際に使える翻訳機
- 作ったロケットを宇宙にまで運ぶ仕組み
など、目に見えないものも作り出せる、ということを言っています。
ものづくりは小さいアイテムだけにとどまりません。
メタバース内の土地を所有していれば
- その土地を自分の好みに変える
- 自作のコンテンツ(例えばゲームなど)を置いて遊んでもらう
という環境自体を変えることができるメタバースもあります。
サンドボックス(The Sandbox)とは
「The Sandbox」はゲームを中心としたメタバースです。
ゲーム内で手に入れたアイテムを売ることもできますが、自作のゲームを作成し、メタバース内で有料で置くことができ、他の人にプレイしてもらうことができます。
メタバースの追加の条件・要素②「物を渡せる・売買などの経済活動が出来る」
さらに『未来ビジネス図解 仮想空間とVR〈メタバース〉』ではこのようなことも言っています。
創造したものを誰かにあげる、トレードする、場合によっては金銭をやり取りして売買するといった要素を備えるメタバースも多く、こちらもメタバースを構成するなくてはならない要素となりつつあります。
『未来ビジネス図解 仮想空間とVR〈メタバース〉』(株式会社往来 著 エムディエヌコーポレーション) P103
一般的なMMO(大規模オンラインゲーム)ではリアルマネートレードを禁止しているものが多いですが、メタバースではリアルマネーでのやり取りが行われるものも多いです。
売買をするということは、作成者の権利や金銭の安全なやり取りが保証されている必要があります。
この部分は最近話題のデジタル著作権とも関わってくるのかもしれません。
ただ、メタバースでは今のようなデジタル著作権が話題になる前から、物の売買は行われていました。
2003年から始まったメタバースサービス「Second Life」では、運営会社のリンデン・ラボの「セカンドライフで作ったものはその作者の知的財産であり、作者は著作権を主張できる」という方針により、物の売買など経済活動が行われています。
セカンドライフ(Second Life)とは
セカンドライフは2003年から始まったメタバースサービスです。
2006年にあるドイツ人がセカンドライフ上で年間1000万稼いだということが話題になり、日本でもブームが起こりました。
セカンドライフ内で使われるリンデン・ドル(L$)は米ドルと互換性を持っているので、仮想空間で何かを作成して現実に稼ぐことは可能です。
ですがそのレートは2020年で1$=200L$と低く、現実の収入として捉えるのは厳しいところがあります。
また、先ほど「物を作れる」の項目で、メタバース内の土地を購入して自分の好みに土地を作りかえるお話をしましたが、購入した土地は他人に貸すこともできます。
メタバース内になにか大掛かりな物やお店などを作りたい人に、土地を貸して利益を得る、ということが可能です。
メタバースの追加の条件・要素③様々なコンテンツが利用できるプラットフォームとして
以上の条件からメタバース内には、いろいろな人が作った世界やコンテンツが生まれてきます。
逆に言うと、チャットができる空間があるだけではなく、そのようなコンテンツがないとメタバースと言えないという考え方もあります。
2020年にアメリカの投資家のMatthew Ball氏がブログ内で語った、メタバースの7つの要件は次のようになっています。
■Matthew Ballが定義するメタバースの7要件
1: Persistent(永続的である)
moguraVR News 「最近話題の「メタバース」ってなに? 言葉の意味から業界動向まで解説」より(※リンクはページ下部に有り)
2: Synchronous and live(同時性&ライブ性)
3: No cap to concurrent participants(同時参加人数無制限)
4: Fully functioning economy(参加者によるモノの制作・保有・投資・売買などが可能)
5: Both digital & physical worlds(デジタルと物理、両方の世界にまたがる体験)
6: Unprecedented interoperability(今までにない相互運用性)
7: Wide range of contributors(数多くの企業/個人がコンテンツや体験を生み出す)
かなり要件が増えました。
ここに書かれているのは、個人や企業が生み出すさまざまなコンテンツで現実と繋がっているメタバースの姿だと思います。
多くの人がそこに同時に参加でき、相互運用性ということからメタバース内から現実の処理を行ったり、現実からメタバース内の処理を行ったりすることができます。
この条件・定義まで行くと、メタバースは今のインターネットそのものにアバターを通じて入り込み、没入感を増した感じのものということができるかもしれません。
メタバースは 「インターネット上に人が集う仮想空間があること」、「自分の分身がいること」 が基本的な条件ですが、定義はあいまいな所があります。
「ものづくりができること」「売買などの経済活動が出来ること」「現実にも繋がるさまざまなコンテンツが利用できること」を条件として挙げる人もいます。
アニメの中に見るメタバース
とは言っても、このような要件をすべて満たすメタバースというものは、まだ現実には存在していません。
なので、このイメージを知るには今の現実のサービスから探すよりも、SFやアニメで探す方がわかりやすいです。
『サマーウォーズ』は2009年8月1日に公開された映画です。
ようこそ、OZの世界へ
『サマーウォーズ』冒頭より
OZは世界中の人々が集い、楽しむことが出来るインターネット上の仮想世界です。
アクセスはお持ちのパソコン・携帯電話・テレビなどから簡単に行えます。
では、これからOZの世界を体験してみましょう。
『サマーウォーズ』では「OZ」という仮想空間の中に人々はそれぞれのアバターを持っています。
OZはアバターを通じて人々とコミュニケーションをするSNSであり、そこからさまざまなゲームを行うことも出来、自治体や道路・水道などのインフラにも通じ、納税なども行えます。
高いセキュリティを持つため、アバターの持つ権限は現実のその人と同じです。
物語内でははっきりとは言っていませんが、事件を解決するために相手を閉じ込めるプランを実行したことがあり、この世界内に物を作る手段があることもわかります。
PCを通じて世界を見ているのでVR(バーチャルリアリティ)は使用していませんが、このサマーウォーズの仮想世界「OZ」は、今想像できるメタバースにかなり近いものと言えます。
『あつまれ どうぶつの森』はメタバースか
ここでタイトルに戻ります。
『あつまれ どうぶつの森』はメタバースか
今まで見てきたように、メタバースの最小条件は 「インターネット上に人が集う仮想空間がある」「自分の分身がいる」 ということです。
なので人を招くことでチャットができ、自分の分身のアバターがいるどうぶつの森はメタバースということができると思います。
ただ、チャットができる人数は限られていて、作れるものも簡単なものであること。また、経済活動もないことなどから、
『あつまれ どうぶつの森』はメタバースではあるけれど、メタバース性は低い
ことになります。
そして、メタバースと言える条件が徐々に増えていることから、
『あつまれ どうぶつの森』 は今はメタバースと言えるけれども、将来的にはメタバースと言えなくなるかもしれない
とも言えると思います。
まとめ
今回は「メタバース」という言葉について考えてみました。
メタバースはインターネット上の仮想空間のことです。「自分の分身となるキャラクター」=「アバター」を使い、そこで同じように入って来た人とコミュニケーションを楽しむことや、オブジェクトや仕組みをその中に作り出すことで、 様々な体験をその中で行うことができます。
ただ、この言葉は発展途中です。今後、新しい技術がメタバースの条件に追加されることもあるかもしれません。
VRの可能性と使い方がわかる本
今回は下記の本、またはWEBを参考にしました。
- moguraVR News 「最近話題の「メタバース」ってなに? 言葉の意味から業界動向まで解説」
- 『セカンドライフ創世記』(鴨沢浅葱 等 著 2007年 インプレスジャパン)
- 『バーチャルリアリティ学』(日本バーチャルリアリティ学会 編 コロナ社)
- 『3Dマーケティングがビジネスを変える』(企画・監修・著者 渡辺昌宏/著者 町田聡、箱田雅彦 2011年 翔泳社)
- 『未来ビジネス図解 仮想空間とVR〈メタバース〉』(株式会社往来 著 2021年 エムディエヌコーポレーション)